戦国時代に愛された和菓子5選|武将たちと甘味の関係
静かな甘さの中に、どこか張り詰めた空気がある。
そんな印象を与えるのが、戦国時代にまつわる和菓子の話です。
華やかな茶会や格式ある贈答だけでなく、戦場や城中のさまざまな場面で使われていた和菓子。そこには、ただの甘いおやつを超えた役割がありました。
この記事では、戦国時代に武将たちのそばにあったとされる和菓子に注目しながら、当時の文化や思いをたどってみます。
今も手に入る5つの和菓子を手がかりに、歴史の中の甘味と、その背景にある人びとの工夫をのぞいてみましょう。
武将と甘味、その意外なつながり
戦国時代の武将といえば、戦や策略、あるいは政治や外交で活躍した人物たちという印象が強いかもしれません。
ですがその一方で、茶の湯をたしなみ、文化的な教養を重んじる一面を持つ者も多く存在しました。
茶の湯に欠かせないのが和菓子。干菓子や生菓子を用いたもてなしは、武将にとっても日常的な習慣だったのです。
また、戦や交渉の合間に気持ちを和らげる手段として、甘味を用いた記録も少なくありません。
つまり和菓子は、単なる趣味嗜好品ではなく、礼儀、戦略、癒し——さまざまな面で活用されていた存在でした。
そんな背景をふまえて、当時を思わせるお菓子たちを見ていきましょう。
戦国にゆかりのある5つのお菓子
戦国時代を生きた武将たちにとって、甘味は心と身体を整える存在でした。
ここでは、そんな時代背景にふれるお菓子を、今のかたちで楽しめる商品としてご紹介します。
それぞれの味わいのなかに、歴史や文化の断片を感じてみてください。

「雷おこし」は古くからある米菓のひとつで、江戸時代には浅草の名物として親しまれていました。
米と麦芽糖を使った香ばしい味わいが特徴で、「家が起こる(繁栄する)」という縁起のよい名前から、贈答用にも選ばれてきました。
この商品「浅草育ち雷おこし」は、伝統の製法を守りながら、いまも観光地などで手軽に買える一品として人気です。
雷門にちなんだ包装やネーミングも、浅草らしさを感じさせてくれます。

かりんとうは、揚げた小麦粉に甘い蜜を絡めた素朴なお菓子。保存性が高く、携帯食としても活用されていたと考えられています。
一説には、戦国時代にも油菓子に似たものが兵糧の一部として存在していたとも言われています。
「黒蜂」は、国産蜂蜜を使ったコクのある甘さが特徴のかりんとう。パッケージは現代的ながら、どこか懐かしさを感じる味です。
戦国時代の素朴なおやつの名残を思わせてくれるような一品です。

金平糖は、ポルトガルから伝わった南蛮菓子のひとつ。室町〜戦国時代にはすでに高級な菓子として扱われており、織田信長がキリスト教宣教師から贈られた記録も残っています。
「春日井なつ菓子 こんぺいとう」は、そんな金平糖を現代風に再現した一品。
カラフルで華やかな見た目はそのままに、パッケージもどこか懐かしい雰囲気です。歴史あるお菓子を、今のかたちで楽しむことができます。

カステラはポルトガルから伝来し、日本で独自に発展した南蛮由来の菓子。16世紀中頃にはすでに長崎を中心に広まり、戦国武将たちの贈答品にも使われていました。
「ちいさなかすていら」は、一口サイズに焼き上げたふんわりとしたカステラ。しっとりとした甘さが口に広がります。
大きなカステラではなく、小さな個包装タイプという点も、現代らしさを感じさせるポイントです。

最中は、薄いもち米の皮に餡を挟んだ伝統的な和菓子。戦国時代の記録には明確には登場しませんが、江戸初期から発展したとされており、原型となる菓子はすでに存在していたと考えられます。
「いろどり最中ミックス」は、こしあん・ごま・抹茶・梅・餅入りと、5種類の味が楽しめる詰め合わせ。個包装されており、見た目も華やかです。
素朴でありながら、バリエーション豊かな和菓子文化を感じさせてくれる一品です。
あんこのお菓子を楽しみたい方にはこちらもおすすめです。
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武将たちが甘味に託したもの
和菓子は、その時代や場面に応じて、さまざまなかたちで武将たちの暮らしに寄り添ってきました。ここでは、これまで紹介した5つのお菓子を通して、それぞれが戦国の世でどのような役割を果たしていたのかを見ていきましょう。
出陣の道中に頼りにされた、雷おこし
戦国時代、合戦や移動の多い武将たちにとって、食の確保は重要な課題でした。携帯しやすく、腹持ちがよく、しかも疲労時にほっとひと息つける甘味は、日々の中で意外と頼りにされていたのかもしれません。
たとえば、雷おこしのように米を糖蜜で固めたお菓子は、持ち運びがしやすく保存性にも優れていたため、出陣の荷に加えられることもあったと考えられます。戦場での食事は簡素で、食料も限られていた中、こうした甘味が気持ちの切り替えや士気の維持につながっていた場面も想像できます。甘さに込められた安心感が、武将たちの戦う意志をそっと支えていたのかもしれません。
兵とともに日常を支えた、かりんとう
遠征や警備、日々の訓練に追われる戦国の武士たちにとって、手軽につまめる甘味は身近な存在でもありました。かりんとうのように、揚げた生地に黒糖を絡めたお菓子は、保存性も高く腹持ちもよいため、実用的なおやつとして重宝されたと考えられます。
移動の合間や作戦前のひとときに、甘味がもたらす小さな安心感は、武将にとっても兵にとっても変わらぬ支えだったのでしょう。特別な場面ではなく、あたりまえの生活の中に甘さがある——そんな和菓子のあり方が、当時から根づいていたのかもしれません。
外交の場に光を添えた、金平糖
戦国時代、日本は海の向こうの文化とも少しずつつながりを持ちはじめていました。金平糖はその象徴とも言える存在で、16世紀にポルトガルから伝わったとされる華やかな砂糖菓子です。
当時、砂糖はとても貴重な品でした。そのため、金平糖のような甘味は、単なる嗜好品ではなく、外交や贈答の場で相手の心をつかむ「道具」としても使われていました。華やかな見た目と長期保存ができる特性は、遠方とのやりとりにも適しており、贈る側の教養や格式をさりげなく伝える手段にもなっていたと考えられます。
格式あるもてなしに選ばれた、カステラ
戦国の世において、南蛮との接触を通じて日本にもたらされたもののひとつが、カステラでした。卵や砂糖、小麦粉で焼き上げたこの甘い菓子は、当時としては目新しく、贈答やもてなしの場面で特別な意味を持っていました。
高位の武将や文化人のもとへ届けられることもあったカステラは、ただの甘味ではなく、教養や国際感覚を示す手段として機能していたとも考えられます。異国の文化を尊重しつつも、日本ならではの味わいに変化させて受け入れていく——そんな柔軟さが、このお菓子の背景には息づいています。
静けさを大切にする心に寄り添った、最中
戦国時代の武将たちの中には、茶の湯や和歌、書のたしなみを通して精神を整えることを重んじる者も多くいました。そうした静かな時間に添えられた甘味のひとつが、最中のような落ち着いた和菓子です。
控えめな見た目とやさしい甘さは、礼儀や季節感を大切にする場面によく合い、贈答や茶席で使われることもありました。気持ちを整えるひと口の甘味に、相手への敬意や場の空気を読み取る繊細さが宿っていたのかもしれません。最中は、そうした武家文化の美意識と深くつながる存在でした。
戦や外交、日々の暮らしの中で、甘味は場面に応じて使い分けられていました。それぞれのお菓子には、当時の武将たちが大切にしていた礼儀や心配りが表れていたのかもしれません。
時をこえて、選ばれつづける理由
戦国時代に根づいた和菓子文化は、その後も時代の流れとともに姿を変えながら、今もなお私たちの身近にあります。
ここでは、そんな「武将たちの時代」から現代まで受け継がれてきた理由に目を向けてみましょう。
何百年も前から人々に親しまれてきた和菓子が、いまも変わらず並んでいる。その事実には、どこか不思議な魅力があります。
時代や暮らしが大きく変わっても選ばれつづける理由があるとすれば、それは味だけでなく、かたちや想いに込められた価値観かもしれません。
金平糖は、そのかたちも名前も当時のまま。ポルトガルから伝わり、信長が贈られた記録もあるこのお菓子は、現代でも贈り物や祝い事の場面で使われることがあります。時代が変わっても「気持ちを伝える手段」としての存在は、そのまま受け継がれているように感じられます。
カステラはもともと外国の菓子でしたが、日本で独自に発展し、すっかり和菓子のひとつとして定着しました。たとえば卵を増やしたり、底にザラメを敷いたりと、日本の好みにあわせて工夫されてきた歴史があります。新しいものを取り入れ、育てていく文化がここにも見えてきます。
最中のような素朴な見た目の和菓子も、実は少しずつ姿を変えながら、今も多くの人に親しまれています。餅入り、梅入り、ごま入りなど、味のバリエーションも豊かで、贈答や季節のお菓子としても定番になっています。こうした変化の積み重ねが、和菓子を長く続く存在にしてきたのかもしれません。
そして、かりんとうのように昔ながらの製法を守りつつ、素材や製法のバリエーションが広がったお菓子もあります。時代の好みに合わせて、少しずつ改良されながらも、基本の味は今も健在です。
現代の暮らしのなかで、戦国時代の名残を意識することは少ないかもしれません。でも、和菓子に手を伸ばしたその先に、何百年もの工夫や想いが重なっているとすれば——それはちょっと特別な時間のようにも思えてきます。
武将たちの時代に思いを馳せたあとは、現代のお菓子も楽しんでみませんか?
戦国時代と今をつなぐ、やさしい一口
戦の世を生きた武将たちにとって、和菓子は、甘さを楽しむだけのものではありませんでした。
贈り物として、場をととのえる道具として、あるいは心を伝える手段として——小さな一口に、さまざまな意味や工夫が込められていたのです。
そしてそれらの和菓子は、時代をこえて今も受け継がれています。当時の姿を残したままのもの、時代にあわせて進化したもの、それぞれのかたちで、私たちの暮らしの中にとけ込んでいます。
今日のおやつに、そんな歴史を感じる和菓子を選んでみるのも、ちょっと面白いかもしれません。
あの時代を生きた人びとの思いや工夫に、ほんの少しだけ、近づける気がしてきます。